米国市場へ進出したものの、「思ったように新規顧客が増えない」「展示会には出展しているが、その後の商談につながらない」「営業をしているが、新しい取引先をなかなか開拓できない」といった課題を抱える企業は少なくありません。
アメリカで新規顧客を獲得し、継続的に販路を広げていくためには、SEO、広告、展示会、営業、代理店といった個別の施策を先に選ぶのではなく、顧客がどのように自社を知り、情報を集め、比較し、評価し、最終的に取引を開始するのかという購買プロセスから逆算して考えることが重要です。
本記事では、BtoBメーカーを主な例として、米国での新規顧客獲得・販路開拓の考え方と、営業、販売代理店、展示会、Webサイト・SEO、LinkedIn、Demo・Sampleなど、それぞれの施策の役割と選び方を整理します。
メーカーを中心に説明しますが、基本的な考え方はIT、物流、建設、コンサルティング、専門サービスなど、その他のBtoBビジネスにも応用できます。
米国での新規顧客獲得は「施策選び」から始めない
米国での販路開拓を考える際、
- Google広告を始めるべきか
- 展示会に出展すべきか
- LinkedInを活用すべきか
- 営業担当者を増やすべきか
- DistributorやSales Representativeを探すべきか
といった「何を実施するか」の議論から始まりがちです。
しかし、どの施策が有効かは、商品、サービス、顧客、価格帯、販売地域、購買プロセスなどによって大きく異なります。
例えば、標準化された部品を多数の企業へ販売するメーカーと、顧客ごとに仕様設計が必要な産業機器メーカーでは、新規顧客を獲得するために必要な営業活動やマーケティング施策も異なります。
米国商務省のInternational Trade Administrationも、海外市場でのSales Channelとして、Direct Salesのほか、Agent、Representative、Distributorなどを活用するIndirect Salesを紹介しており、商品や市場に応じて販売方法を検討する考え方を示しています。
したがって、最初に考えるべきなのは「SEOをする」「展示会に出る」といった施策ではありません。
市場 → 顧客 → 担当者 → 課題 → 購買プロセス → 接点 → 施策
という順番で整理することが重要です。
米国企業はどのように新しいサプライヤーを探すのか
ここではBtoBメーカーを例に考えてみます。
ある米国メーカーのEngineerが、製造設備で発生する振動問題を解決するため、新しい部材や技術を探しているとします。
その担当者が、最初から特定メーカーへ問い合わせるとは限りません。
GoogleやAIで解決方法を調べるかもしれません。業界サイトやSupplier Directoryを確認したり、既存のSupplierや同業者から紹介を受けたり、展示会で製品を知ったり、LinkedInで企業の存在を認識する場合もあります。
そして候補となる企業を見つけた後には、
- 自社の用途に対応できるか
- どのような技術・Capabilitiesを持っているか
- 類似業界で実績があるか
- 品質やCertificationは問題ないか
- SampleやPrototypeを確認できるか
- 米国内でサポートできるか
- Lead TimeやMOQは適切か
といった情報を確認します。
製造業向けSupplier Discovery PlatformであるThomasnetも、Supplierを探すプロセスを大きくSearch → Evaluate → Connectとして設計しています。
つまり、米国市場で新規顧客を獲得するためには、「検索で見つけてもらう」だけでは十分ではありません。
候補として認知された後に、顧客が必要な情報を確認でき、比較・評価し、次のアクションへ進める状態を作る必要があります。
BtoBの顧客獲得はオンラインだけでも、営業だけでも完結しない
現在のBtoB Buyerは、一つのチャネルだけを使ってSupplierを選んでいるわけではありません。
McKinseyが2024年に実施したB2B Pulse Surveyでは、BtoBの意思決定者が購買プロセスで利用するInteraction Channelは平均10チャネルとされています。
検索、企業Webサイト、Eメール、対面営業、Video Conferenceなど、複数の接点を行き来しながら購買を進めています。
またGartnerが2026年に発表した調査では、BtoB Buyerの67%が営業担当者を介さないRep-Free Experienceを好む一方、AIから得た情報を検証する際には69%がSales Representativeを利用したいと回答しています。
つまり、購買プロセスの中でも役割が異なります。
一般的な情報を調べる
→ Google、AI、Webサイト、Technical Content
候補企業を比較する
→ Product Information、Case Study、Certification、Capabilities
実際に使えるかを確認する
→ Sample、Demo、PoC
自社固有の条件を相談する
→ Sales、Engineer、Consultant
価格・納期・契約条件を具体化する
→ Quote、Negotiation、Supplier Qualification
したがって、米国でのBtoBマーケティングでは、
「デジタルマーケティングか営業か」ではなく、「購買プロセスのどこで、どの接点が必要なのか」
と考えることが重要です。
アメリカで新規顧客との接点を作る主な方法
米国での販路開拓にはさまざまな方法があります。
すべてを実施する必要はありません。それぞれの施策には異なる役割があるため、自社の顧客や購買プロセスに合わせて組み合わせます。
Direct Sales・営業
営業担当者がTarget Accountへ直接アプローチする方法です。
顧客の課題や導入条件を直接確認しながら提案できるため、Custom Product、Technical Solution、高単価商品などとの相性があります。
一方で、営業人員と時間を必要とするため、多くの企業へ幅広く認知を広げる方法としては効率が低くなる場合があります。
Distributor・Sales Representative・販売パートナー
既存の販売ネットワークや顧客関係を持つPartnerを活用する方法です。
新しい市場へ比較的早くアクセスできる可能性がありますが、「Distributorを見つければ自動的に販売してもらえる」というわけではありません。
Partner側も、
- 既存顧客に需要があるか
- 利益を確保できるか
- 商品を販売する理由があるか
- メーカーから十分な支援を受けられるか
などを判断します。
そのためメーカー側にも、Sales Material、Webサイト、Technical Information、Sample、Training、Lead Generationなどの支援が求められます。
展示会・Trade Show
アメリカのBtoB販路開拓、特にメーカーでは展示会が重要な役割を持つ業界も多くあります。
展示会では、
- 認知を獲得する
- 潜在顧客と直接会う
- 製品を実際に見せる
- Demoを行う
- 市場ニーズを確認する
- 競合を調査する
といった複数の活動を同時に実施できます。
米国商務省もTrade Showの活用目的として、商品・サービスの紹介、Trade Leadの獲得、Potential BuyerやPartnerとの面談、競合調査などを紹介しています。
JETROも海外販路開拓における展示会・商談会について、多数のBuyerとの接触、商品の直接PR、実演、市場調査、Test Marketingなどに活用できるとしています。
ただし、「展示会へ出展すること」自体を目的にしないことも重要です。
展示会前:Target Accountへの案内・Appointment設定
展示会当日:Demo・Sample・商談
展示会後:Lead Qualification・Sales Follow-up
までを一つの施策として設計します。
Webサイト・SEO
Webサイトの役割は「問い合わせを取ること」だけではありません。
例えば、
- 展示会で名刺交換したBuyerが会社名をGoogle検索する
- 営業メールを受け取ったEngineerがWebサイトを見る
- Distributorから紹介された企業がProduct Specificationを確認する
といったことがあります。
そのため、BtoBメーカーのWebサイトには、
- Product
- Application
- Industry
- Technical Data
- Case Study
- Certification
- Company Capability
- Sample Request
など、顧客が自分で理解・比較できる情報が重要です。
SEOも単純なLead Generationだけではなく、課題やSupplierを検索しているPotential Buyerと最初の接点を作る役割があります。
LinkedIn・Outbound
Target Accountや担当者が比較的明確な場合に利用しやすい方法です。
Engineer、Purchasing、Managementなど、接触したいPersonaを明確にしたうえで、LinkedInやEmailによるアプローチを行います。
ただし、大量に同じ営業メッセージを送るだけでは、受け手にとって無関係なSales Messageになりやすくなります。
「なぜこの企業へ連絡するのか」「どの課題に関連するのか」を整理したアプローチが重要です。
Industry Association・Community・Referral
米国での新規顧客獲得は、検索や広告だけから発生するわけではありません。
Industry Association、Conference、地域のBusiness Community、既存顧客、Business Partnerなどを通じて、新しい企業との接点が生まれることもあります。
特にBtoBでは、長期的な取引や高い信頼性を求められることが多いため、こうしたRelationship-basedな販路開拓も重要です。
Demo・Sample
BtoBメーカーにおいて、商品への理解やTechnical Evaluationを進めるための重要な接点です。
Webサイトで性能を説明するだけでなく、実際にSampleを使ってもらったり、Demoを見てもらったりすることで、顧客自身が導入可能性を判断できます。
BtoBメーカーでも「体験」は重要なマーケティングになる
体験型マーケティング(Experiential Marketing)という言葉から、Consumer BrandのPop-up Storeや大型イベントを想像する方もいるかもしれません。
しかしBtoBメーカーでも、「実際に体験してもらうこと」は重要な販路開拓手法になります。
例えば、
- Trade Showで実機を動かす
- Sampleを提供する
- Prototypeをテストしてもらう
- 顧客施設でDemoを実施する
- Engineer向けWorkshopを開催する
- Technical Seminarを実施する
といった方法です。
カタログやWebサイトで性能を説明することと、顧客自身がSampleを使って性能を確認することでは、購買判断に与える役割が異なります。
特に、
- 技術的な差別化が大きい商品
- 実物を見た方が価値を理解しやすい商品
- 新しいカテゴリーの商品
- 導入前のTechnical Evaluationが必要な商品
では、DemoやSampleが検討を前に進める重要な接点になります。
サービス企業であれば、Consultation、Workshop、Trial、Demo、PoCなどが同様の役割を果たします。
そのため、体験型マーケティングを特殊なイベント施策として捉えるのではなく、
「顧客が商品・サービスを理解し、判断を前に進めるために、どのような体験を提供するか」
と考えることで、幅広いBtoBビジネスへ応用できます。
施策を選ぶ前に整理したい6つのこと
米国で新規顧客獲得や販路開拓を始めるのであれば、まず次の6項目を整理してみましょう。
1. Market:どの市場を狙うのか
例えばメーカーであれば、Automotive、Medical、Electronics、Industrial、Energyなどです。
2. Customer:どの企業群を狙うのか
OEM、Tier 1、Distributor、Integrator、End Userなど、同じIndustryでもCustomer Typeによって購買行動は異なります。
3. Persona:誰が判断に関与するのか
Engineer、Purchasing、Plant Manager、Managementなど、BtoBでは複数のStakeholderが選定に関与する場合があります。
4. Need:何の課題を解決するのか
Quality、Cost、Lead Time、Productivity、Vibration、Safetyなど、「誰のどの課題を解決する商品なのか」を明確にします。
5. Buying Process:どのように選ばれるのか
例えば、
Search → Product Research → Sample → Technical Evaluation → Quote → Approval
というプロセスかもしれません。
6. Channel:どこで接点を作るのか
Sales、Distributor、Trade Show、SEO、Google Ads、LinkedIn、Referral、Demoなどから、Buyer Journeyに適したチャネルを選択します。
例えば、
Automotive
↓
EV Battery関連メーカー
↓
Battery Pack Engineer
↓
Vibration / Shockの課題
↓
Sample Evaluationが重要
↓
Direct Sales + Trade Show + Technical Web Content + Sample
まで整理できれば、優先すべき施策はかなり明確になります。
どこで顧客獲得が止まっているのかを確認する
すでに米国で営業やマーケティングを行っている企業であれば、新しい施策を増やす前に、現在のボトルネックを確認することも重要です。
認知不足:そもそも知られていない
Target企業から十分に認知されていないのであれば、SEO、広告、展示会、LinkedIn、PR、Outboundなど、DiscoveryやAwarenessを増やす施策が候補になります。
比較で離脱:見られているが選ばれない
Webサイトへの訪問や展示会での接触はあるものの問い合わせにつながらない場合、Application、Industry、Case Study、Technical Data、Competitive Advantageなど、比較に必要な情報が不足している可能性があります。
商談化不足:Leadはあるが案件にならない
Leadは獲得できているものの商談につながらない場合は、Lead Qualification、Sales Follow-up、Appointment Setting、Demoなどを確認します。
受注化不足:見積後に進まない
商談やQuoteまでは進んでいるのであれば、さらに認知を増やしても問題が解決しない可能性があります。
Technical Risk、Supply Capability、Price、Lead Time、Contract Terms、Sample Evaluationなど、購買判断を止めている要因を確認する必要があります。
すべての施策を実施する必要はない
米国市場は大きく、販路開拓の方法も数多く存在します。
しかし、SEO、Google Ads、LinkedIn、展示会、PR、Direct Sales、Distributorをすべて同時に始める必要はありません。
限られた予算や人員で多くの施策を同時に実施すると、どの施策も十分に運用できなくなる可能性があります。
重要なのは、
「どの施策が一番効果的なのか」ではなく、「現在の顧客獲得プロセスのどこに課題があるのか」
を確認することです。
Market → Customer → Persona → Need → Buying Process → Channelを整理し、その中で最も重要な接点から優先的に投資します。
そして結果を確認しながら、必要に応じて次のチャネルを追加していきます。
米国販路開拓で重要なのは「顧客との接点を設計すること」
アメリカで新規顧客を獲得する方法に、一つの正解はありません。
Direct Salesが中心になる企業もあれば、Distributorが重要な企業もあります。
Trade Showから多くの商談を獲得できる市場もあれば、Google Search、LinkedIn、Referralなどから新規顧客との接点が生まれる業界もあります。
メーカーの場合には、さらにSample、Demo、Technical Evaluationなど、実際の商品を評価するプロセスが重要になることがあります。
だからこそ、
顧客は誰か
↓
何に困っているか
↓
どうやって解決方法を探すか
↓
どこで自社を知るか
↓
何を確認するか
↓
何と比較するか
↓
何を体験すれば判断できるか
↓
誰と相談する必要があるか
↓
何が揃えば購入できるか
というBuyer Journeyから考えることが、米国販路開拓の出発点になります。
そのうえで、営業、販売代理店、展示会、Industry Association、Community、Referral、Webサイト、SEO、広告、LinkedIn、PR、Demo、Sampleなど、それぞれの役割を理解し、自社に適した組み合わせを選択します。
オンラインとオフライン、営業とマーケティングを分けて考えるのではなく、
「新しい顧客が自社を知ってから取引を開始するまでに、どのような接点が必要なのか」
を一つのプロセスとして設計すること。
それが、米国市場で継続的に新規顧客を獲得し、販路を広げていくための基本的な考え方です。
よくある質問
アメリカで新規顧客を獲得するには、何から始めるべきですか?
最初にMarket、Customer、Persona、Need、Buying Process、Channelを整理することをおすすめします。施策を先に決めるのではなく、自社の顧客がどのように商品やSupplierを探し、比較・評価するのかを理解したうえで必要なチャネルを選びます。
米国販路開拓ではSEOと営業のどちらが重要ですか?
役割が異なるため、単純にどちらか一方を選ぶものではありません。SEOやWebサイトはDiscoveryや比較検討を支援し、営業は個別条件の確認や商談・購買判断を前に進める役割を持ちます。
BtoBメーカーでも体験型マーケティングは活用できますか?
活用できます。展示会での実演、Demo、Sample、Prototype Test、Technical Workshopなども、商品への理解と評価を前に進める体験型の接点として考えることができます。
参考・参照情報
-
International Trade Administration, “Sales Channels”
Direct Sales、Agent、Representative、Distributorなど、海外市場で利用される販売チャネルの基本を紹介しています。
https://www.trade.gov/sales-channels -
Thomasnet, Online Supplier Discovery
製造業におけるSupplier Discovery、企業情報・Capabilities・Certificationなどの比較・検索プロセスを確認する際の参考としています。
https://sourcing.thomasnet.com/ -
McKinsey & Company, “Five fundamental truths: How B2B winners keep growing”
BtoB Buyerが複数のInteraction Channelを横断しながら購買する傾向などを示したB2B Pulse Surveyを参考としています。
McKinsey & Company -
Gartner, B2B Buyer Survey
BtoB BuyerのDigital Self-Service志向と、Sales Representativeが購買判断や情報検証で果たす役割について参考としています。
Gartner Newsroom -
International Trade Administration, “Choosing a Foreign Representative”
DistributorやRepresentativeの選定において、Sales Force、Sales Record、Territory、Product Mixなどを確認する考え方を参考としています。
https://www.trade.gov/choosing-foreign-representative -
International Trade Administration, “Trade Shows”
Trade Showを商品・サービスの紹介、Lead獲得、Buyer・Partnerとの接触、競合調査などに活用する考え方を参考としています。
https://www.trade.gov/trade-shows -
JETRO「展示会・商談会に参加したい」
海外販路開拓における展示会・商談会の活用、市場調査、商品の直接PR、Test Marketingなどについて参考としています。
https://www.jetro.go.jp/services/export_guide/tradefair.html